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開設にあたって

 現代資本主義の支配は地球大的な規模に拡大し、グローバル資本主義ともいうべき新しい局面を迎えている。グローバリゼーションとプリバタイゼーションを旗印とする自由市場経済の奔流は、人類が育んできたエコロジー的、人間的共生の価値体系、さらには近代に作り上げた社会的公正と連帯の価値体系を破壊し尽くさんばかりの勢いで進んでいる。この局面が人類すべてに日々の豊かさと平和をもたらすものではないことはすでに明らかである。人類の営みの理念的、制度的達成物を現代に照らして再確認し、批判的、対立的価値体系を確立することが求められているのではないだろうか。

 地球の視野で考えることは、大学研究者や知識人にとっては当然のことであった。ところが今では、アカデミズムは産官学共同の卑俗な実益主義に絡め取られ、偏狭で浅薄なナショナリズムを意識的にせよ無意識的にせよ掲げた「知」が横行している。真の意味でのグローバルな価値は、かって社会主義が権力によって強要し、今は市場主義的開発が競争によって強要するような教義によって実現されることはない。多様な文化が保持する価値の多様性を認め合い、先進対発展途上のドグマを排して相互に学び合うことによってはじめて実現される。

 21世紀には、地球環境危機が進み、稀少になる資源と増大する人口との不均衡が拡大する。今の力関係のままで進むならば、この世紀が戦争と動乱の世紀になることは疑いない。「正義」の名による恫喝が日常化し、「正義」を主張しながら資源に対する飽くなき欲望を隠そうともしない潮流が支配的になっている現代に生きて、社会科学にはあらためてこの世界史の激動に真摯に対応することが求められている。「考える」よりも「行動する」ことが必要だとの批判を受けることは承知している。しかし、考え抜くことこそが、科学者や知識人の最も重要な行動形態である。軽率な行動によってファシズムや軍国主義に絡め取られていった歴史的体験も想起されなければならない。「地球の視野で考える」とした理由もそこにある。

 情報技術の発展によって新しい発信と交流の可能性が生まれている。紙と書物の力、直接対話の力を否定するものではないが、私は新しい可能性に連帯の輪の拡大を賭けてみたい。このホームページは、当面は私の仕事の公開から開始されるが、これを機に対立的、批判的価値のあり方を真摯に追求する自由な人びとの新しいネットワークが発展すること切に望む。

2003年2月
佐々木 建
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